2017.02.24

開業医なら絶対知っておきたい小規模共済~節税しながら貯蓄しよう~

法人化していない個人クリニックの院長先生が退職金を確保するための共済制度として”小規模企業共済”というものがあります。

これは退職した際に積み立ててきた掛金に応じた共済金を受け取ることができる制度です。
この制度は節税を検討する際に非常に効果的です。

今回は、小規模共済へ加入することでどれだけ節税できるかをご紹介いたします。

そもそも小規模共済とは?

クリニックにとって小規模共済とは2つの意味があります。

  • 引退後の生活に備える制度
  • 医療法人化するための自己資金を確保する制度

大規模病院なら退職金制度を支える財源があり、小規模クリニックの勤務医なら退職金共済に加入できます。また、医療法人の経営者なら保険商品を活用して退職金の財源を確保するスキームがあります。

しかし、開業したばかりのクリニックには、退職金の財源を確保する余力はなく、退職金共済や保険商品を活用して引退後の生活に備える選択肢がありません。そのため、開業医のために小規模共済が存在します。

具体的にどのような形で引退後の生活に備える・医療法人化の自己資金作りの仕組みを紹介します。

  • 引退後に退職金として共済金を一括で受け取れること
  • 一括で受け取る代わりに分割払いで年金として受け取れること
  • 医療法人化するときの解約手当金は退職所得扱いにされる点で税制上優遇されていること(通常の解約手当金は一時所得扱い)
  • 小規模共済の受給権を差し押さえることは禁止であるために確実に受け取れること

小規模共済の節税効果

小規模共済は掛け金を支払う段階と受け取る段階で、2重の所得控除ができるメリットに享受できます。

掛け金を支払う段階の節税効果

掛け金が全額所得控除の対象になります。また、1年以内の全納分も同様です。つまり、所得金額の大きい年の場合は全納したほうが適用税率は高くなるために節税効果が大きいです。

掛金の全額所得控除による節税額一覧表

課税される
金額

加入前の税額 加入後の節税額
所得税 住民税 掛金月額1万円 掛金月額3万円 掛金月額5万円 掛金月額7万円
200万円 104,800円 205,000円 20,700円 56,900円 93,200円 129,400円
400万円 380,300円 405,000円 36,500円 109,500円 182,500円 241,300円
600万円 788,700円 605,000円 36,500円 109,500円 182,500円 255,600円
800万円 1,229,200円 805,000円 40,100円 120,500円 200,900円 281,200円
1,000万円 1,801,000円 1,005,000円 52,400円 157,300円 262,200円 367,000円

出典:小規模企業共済制度のしおり 平成28年4月改訂版

受け取る段階の節税効果

共済金・解約手当金の受け取り方法が一括払いの場合は退職所得、分割払いの場合は公的年金等の雑所得になります。

退職所得の節税効果

一括で受け取った共済金・解約手当金から所得控除される退職所得控除額は次の通りになります。

  • 加入期間が20年以下の場合
    退職所得控除額=40万円×加入期間
  • 加入期間が21年以上の場合
    退職所得控除額=800万円+(加入期間―20年)

それでは、退職所得の節税効果を一時所得と比較して検証します。

共済金・解約手当金の金額 加入期間 退職所得控除額

退職所得の金額

(A)

一時所得の金額

(B)

所得控除の差額

(B)-(A)

2,400,000円 5年 2,000,000円 400,000円 950,000円 450,000円
4,800,000円 10年 4,000,000円 800,000円 2,150,000円 1,350,000円
7,200,000円 15年 6,000,000円 1,200,000円 3,350,000円 2,150,000円
9,600,000円 20年 8,000,000円 1,600,000円 4,550,000円 2,950,000円
14,400,000円 30年 15,000,000円 0円 6,950,000円 6,950,000円

※任意解約の場合は一時所得になるケースがあります。

一時所得=(共済金・解約手当金の金額-50万円)×1/2


公的年金等の雑所得

共済金を分割で受け取る場合の公的年金等の雑所得の金額は次の通りです。

公的年金等の雑所得=収入金額―公的年金等控除額

公的年季等控除額一覧表

65歳以上 65歳未満
収入金額 公的年金等控除額 収入金額 公的年金等控除額
3,300,000円以下 1,200,000円 1,300,000円以下 700,000円
3,300,000円超4,100,000円以下 収入金額×25%+37.5万円 1,300,000円超4,100,000円以下 収入金額×25%+375,000円
4,100,000円超7,700,000円以下 収入金額×15%+78.5万円 4,100,000円超7,700,000円以下 収入金額×15%+785,000円
7,700,000円超 収入金額×5%+1,555,000円 7,700,000円超 収入金額×5%+1,555,000円

それでは、公的年金等の雑所得の節税効果を検証します。今回は65歳上で受け取る場合を例にします。

収入金額 収入金額をベースに計算した税額(所得税・住民税)

公的年金等控除額

(A)

(A)による節税額
3,000,000円 502,500円 1,200,000円 232,500円
4,000,000円 772,500円 1,375,000円 345,000円
6,000,000円 1,327,500円 1,685,000円 460,500円
8,000,000円 2,004,000円 1,955,000円 618,000円

どのくらい退職金を受け取れるのか?

受け取る理由によって退職金の金額が違ってきます。今回は月額掛金1万円を例にしましょう。

掛金納付年数 掛金合計額 共済金A 共済金B 解約手当金
廃業・死亡した場合 老齢給付65歳以上かつ掛金を180月以上納付した場合 任意解約・医療法人化して役員に就任した場合
5年 600,000円 621,400円 614,600円 掛金合計の80%~120%
10年 1,200,000円 1,290,000円 1,260,800円
15年 1,800,000円 2,011,000円 1,940,400円
20年 2,400,000円 2,786,000円 2,658,800円
30年 3,600,000円 4,348,000円 4,211,800円

参考資料:小規模企業共済制度のしおり 平成28年4月改訂版

小規模共済の加入要件

基本的に個人事業主のクリニックなら加入できます。反対に医療法人は加入できないので、注意が必要です。それでは加入要件を加入対象者と事業規模に分けて説明します。

加入対象者

クリニックの院長と配偶者などの共同経営者の2人まで加入できます。

事業規模

加入する時点で、常時使用する従業員5人以下のクリニック。常時使用する従業員とは、院長とその家族・共同経営者以外の正社員(雇用期間の定めがない者)を指します。したがって、雇用期間の定めがある契約社員やパートなどは含みません。

加入要件の注意点

☑事業が拡大して正社員が5人を超えて小規模でなくなって、加入資格は維持されます。よって、その時点で小規模共済を解約する必要はありません。

☑正社員の基準は給与体系ではありません。月給でも契約社員なら対象外、パートでも雇用期間の定めがなければ正社員の人数にカウントされます。

☑配偶者でも事務などのルーチワークのみなら共同経営者に当てはまらず、小規模共済の加入対象者にならない可能性があります。

小規模共済は元本割れするケースがある

加入するときの注意点は加入期間が20年未満で解約すると元本割れします。たとえば、個人事業主のクリニックの院長が医療法人化したとき、強制的に解約させられます。そのとき、加入期間が20年未満のケースが生じます。 といっても、元本割れだけで医療法人化にするか否かを判断するのはオススメできません。

医療法人のほう個人事業主よりトータルで節税効果がある可能性があるからです。元本割れで解約することも選択肢に入れる必要があります。

 

参考:勉強会セミナー

開業を成功させる一番のポイントは、事業主となる先生が経営者として成長することにあります。経営者としての考え方、視点、判断の方法を学ぶための勉強会です。

>クリニック開業基礎講座

>クリニック継承基礎講座

>スタッフ採用・育成基礎講座

>広告・集患基礎講座

>開業医の為の将来設計講座

まとめ

小規模共済はクリニックの経営者の老後の生活の備えに国が税制面でバックアップしている制度です。平成28年4月からは共同経営者になりえる配偶者の加入が認められるなど制度は拡充しています。しかも、小規模の判断は加入時点です、事業が拡大して正社員が5人を超えても継続して加入することが認められています。したがってクリニックの開業にはお得な制度です。

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